2017.4.19

ON READING店主・黒田義隆オススメの本山〜東山

ON READING店主 黒田義隆さん

TEXT:TAKATOSHI TAKEBE(LIVERARY/THISIS(NOT)MAGAZINE) / PHOTO:KAZUHIRO TSUSHIMA(TONETONE PHOTOGRAPH)

地下鉄東山線沿線の東山公園駅〜本山駅界隈は、至るところに現れる坂道と高級感のある閑静な住宅街に囲まれたエリア。名古屋の中心・栄からはやや離れたところにあるせいか、まち全体が落ち着いた大人の雰囲気を醸し出しています。今回は同エリアに書店を構える、黒田義隆さんのMY FAVORITE ROUTEです。

カミヤベーカリー

シンプルにおいしいパンを選ぶなら。

本山駅を出て、大通りから裏道に入り、徒歩10分ほど歩いていくと、目の前に白くて角ばった建物が見えてきました。その毅然たる店構えは、一見して現代アートギャラリーのようです。
店内に入ると、一日に売り切れるくらいの数しかつくらないというこだわりのパンが整然と並んでいます。厨房から店主夫婦がにこやかに出迎えてくれました。

大きな窓から入るやわらかな光に包まれる店内と黒田さん

店内にギャラリースペースを設けているのも特徴的。そこに展示されているのは、神谷夫妻自身が「自分たちの生活に実際に取り入れたい」と思った食器やカトラリー、そしてアート作品などが並んでいます。書店でありギャラリーでもある『ON READING』を営む黒田さんが、この店に惹かれるのはなんとなく納得。「もちろんパンが美味しい!ってのが一番のオススメの理由ですけどね。噛めば噛むほど甘みが出てくるのは、ほとんど天然酵母でつくってらっしゃるから」と黒田さん。『カミヤベーカリー』は基本的にはテイクアウト専門の店。出勤前にふらり寄り道をして、昼食用のパンを買うのが黒田さんの楽しみのひとつなのだそう。

  • ギャラリーペースに置かれた生活雑貨。神谷さんたちも実際に使用している、確かなものをセレクト

「季節に応じた新商品が出るのも飽きさせない理由ですよ。今日は何にしようかな〜?」店番に残している妻・杏子さんのお土産用のパンをチョイスする黒田さんの姿はどこか微笑ましい。香ばしい香りの出来たてパンを袋に入れてもらい、次なるオススメスポットへと向かいます。

カミヤベーカリー ミニマルに凝縮された美と食へのこだわり

『カミヤベーカリー』から『バブーシュカ』へ。

『カミヤベーカリー』から『バブーシュカ』へ。アップダウン激しい丘陵地帯となっているこのエリア、ウォーキングするとちょっといい運動になります。特に『バブーシュカ』前の道は傾斜がかなり急で、自動車か自転車で頂点まで登って坂を下ると、ジェットコースターのようなスリルをもれなく味わうことができます。

バブーシュカ

人柄もにじみ出た、カレーの奥深い味わいを。

本山は「山」とつくだけあって、坂がやたらに多い。そして、高台にはまるで城のような大きな家々が連なる。この風景はこのエリアの特色。「なんでお金持ちは高いところに住みたがるんだろうね〜(笑)」なんてことを話しながら、黒田さんが次に向かった先はオリジナリティの塊とも言える絶品カレーの店『バブーシュカ』。

ごぼうのドライカレー。ピクルス、ルイボスティー付きで、1080円

店主の杉村さんと黒田さんは公私共に大の仲良し。「定休日が被ってしまっていて、なかなか食べにこれないんだけど、お店に行かなくともしょっちゅうご飯を食べに行ったりするんですよね。何なら今夜も中華行く約束してます」と黒田さんは笑う。
2人を繋いでいるのはカレーと本だけではもちろんなく、ジャンルを超えて互いをリスペクトできる信頼関係にあるようです。「黒田夫妻にはいつも助けてもらってます〜。私の相談事をいっつも聞いてもらってるんです〜」と杉村さん。そんな黒田さんも「杉ちゃんのお客さんとの距離感は見習うべきところがいっぱいある」と褒め合いがスタート。

人懐っこい性格の杉村さん、実はカレー屋での修行経験はなくすべて自己流というから驚き。試行錯誤を繰り返しながら開店し、以来メニューを変えずに今年で7年目を迎えるのだそう。「大変ですけどね。でもこれが私のやりたかったことだから」。貫かれる思いはたっぷりと熟成され、今日も一杯のおいしいカレーへと注がれていく。

バブーシュカ 素朴だけどオリジナリティの高い、絶品カレー

『バブーシュカ』から『シマウマ書房』へ。

『バブーシュカ』から『シマウマ書房』へ。本山駅付近まで歩いて、賑やかな交差点へ出ました。この交差点を渡った先に『シマウマ書房』があり、そのもう少し先に名古屋大学があります。「現在は、大学内に直通の駅ができたため、若い学生たちが賑わう姿は本山付近にあまり見られなくなってしまったんです。それとともに、もともとこの通り沿いにあった若者向けの雑貨店やレコード店も撤退してしまったのは、ちょっと寂しいですね」と黒田さん。

シマウマ書房

名古屋のブックカルチャーを盛り上げる、大先輩。

続いて向かったのは本山駅を出て、大きな交差点を渡ったところのビルの地下1Fにある古書店『シマウマ書房』。同店の店主・鈴木創さんと黒田さんは、ほぼ同年に名古屋で書店をスタートした10年来の間柄。2人はこれまでに名古屋の書店全体を盛り上げるため、大型書店〜個人店までをつなぐイベント「BOOKMARK NAGOYA」の運営に長年に渡って携わってきた同志でもあります。

「本に関しては鈴木さんには頭があがらないんです」と黒田さんが尊敬の念を抱く鈴木さんは、さまざまな形で出版業界に携わった後、「古本」という業態に興味を持ち名古屋市内の古書店でのアルバイト時代を経て開業。「新しい本、売れる本を次々と出していくサイクルの早い出版業と、古本業は全く違っていてもっと大きな時間軸で動いているんです」と鈴木さん。

  • 黒田さんがこの日ゲットした書籍は、小沼丹の『木菟燈籠』。

「今や書店は減るばかりだよね〜!」「スマホを見せながら「この本ありませんか?」って聞いてくる若い子増えたよね〜」そんな本屋あるある話で盛り上がる2人。「編集者が新しい本をつくるためには、表には出ていない情報が必要なときがあるでしょう? そんなとき資料としての古本が重宝されるんです。例えば……これ。あ、写真は撮っちゃダメだよ〜」カメラマンを気にしながらも、こっそりと貴重な文献を見せてくれる鈴木さん。話は尽きませんが、そろそろ次の場所へ……。

シマウマ書房 本が人を呼び、文化をつくる

そろそろ『ON READING』のある東山エリアへ・・・・・・。

そろそろ『ON READING』のある東山エリアへ……。本山から東山へと移動する際に、ちょうどよい目印となるのが、にょきっとそびえ立つ「東山スカイタワー」。高さは地上から134m(タワー自体が標高80mのところにあるため、標高は214m)という展望タワーです。動物園正門までの通りには、ちょっとシュールなコアラの石像も。

東山動植物園

市内外から愛され続ける、名古屋の定番スポット。

「最近、気になる動物がいるんです」ということで、もう少し寄り道をすることに。『ON READING』のほど近いところにある人気の観光スポット「東山動植物園」へ。「うちの店に遠方からわざわざ足を運んでくれるお客さんも結構いて、動物園に寄ってから来てくれる人もいるんです。なので、話のネタになるような最新情報は常にチェックしています」と黒田さん。今日のお目当ては準絶滅危惧種でネコ科最古という説もある「マヌルネコ」。普段から愛猫をInstagramなどにUPしている黒田さん、かなりワクワクしながら園内を突き進みます。

途中「ユキヒョウ」に遭遇。大きな身体と鋭い目つき。近くで見るとかなりの迫力ですが「よく見るとやっぱりネコだな〜。可愛いですね」とコメント。無類の猫好きのようです。そして、ついに目標の「マヌルネコ」の檻の前へ到着しました。

  • 「わざわざ降りてきてやったぞ!」と言わんばかりのマヌルネコ様。全身の毛が逆だってます

しかしながらこの日は、いつものお気に入りスポットだという檻の最上部にある窓辺に座り込んでしまい、なかなか下へ降りてこない。逆光でシルエットしか見えないまま、取材終了かと思った瞬間、飼育員さんが何度か呼びかけると、奇跡的に(空気を読んだのか)下へ降りてきてくれました。「モフモフでかわい〜!」と大はしゃぎの黒田さん。
「あ!そろそろお店へ戻らなきゃ」と早足で園を後にします。

東山動植物園 昭和12年に開園した歴史ある動植物園

「東山公園」から『ON READING』は目と鼻の先。

「東山公園」から『ON READING』は目と鼻の先。広小路通りを渡って「ガスト」のすぐ横にある古いアパートに『ON READING』があります。このアパートには『ON READING』のほかにもギャラリーやお菓子屋さんが出店していて、隠れたカルチャースポットとして人気を集めています。

ON READING

まちとひとと共に成長できる店づくりを目指して。

「ただいま〜」長過ぎる休憩時間を経て、ようやく帰ってきた黒田さん。店番の杏子さんにさっそくお土産のパンを渡しつつ、「マヌルネコ」の写真を見せながら談笑する二人。彼らが書店を始めたのは11年前、伏見長者町商店街のビルの一室から。その後、東山動植物園からすぐのところにある築40年の古いマンションの一室へ移転し、現在6年目だそうです。

  • 店内にはSTOMACHACHE.、塩川いづみなど人気作家たちの作品もあちらこちらに。ON READINGでは、彼女たちの書籍も企画出版している。

でも、どうしてこの場所に店を出したのでしょう。感度の高いセレクトブックショップという業態でわざわざ名古屋のまちなかから離れたのでしょうか。
「あえて奥に引っ込んでいたいとも思ってなかったけど、まちのど真ん中に出すよりは、自然と中心から少し離れたところに出したかったのかもしれない。」と黒田さん。現在では全国的な知名度となった同店。ギシッギシッと経年した床板がたてる小さな擬音と、静かにゆっくりと本棚から本を手に取り、ページをめくる音が2人の会話の合間合間にインサートされる。

  • 「うわ!コレ、今食べっちゃっていいの?」うれしそうにお土産のパンを袋から出す、杏子さん

本やアートと向き合う豊かな時間が育まれるこの空間のファンは多く、平日とも言えども県内外からの来客が次々とやって来る。「自分たちの生活しているこのまちで、自分たちが欲しいと思った本が買えなかったから始めた。同じようにそう思ってくれてる人たちがいるからこそ、次は何を仕入れようという意欲につながっています。これからもお客さんとともに成長していきたいですね」。

ON READING 名古屋を代表するカルチャースポット

PROFILE

案内人Yoshitaka Kuroda

東山公園駅から徒歩1分ほどのところにあるアパートの一室で、書店&ギャラリーON READINGを奥さんの杏子さんともに営む。店の知名度は今や全国的で、名古屋を代表するカルチャー的キーパーソンに。ウェブマガジン「LIVERARY」編集部のひとりでもある。

ライターTakatoshi Takebe

フリーのエディター/ライター/デザイナー。1983年生まれ。岐阜市出身。これまでさまざまな編集プロダクション/出版社に勤務し編集ノウハウを学び、本業と並行して自主制作雑誌「THISIS(NOT)MAGAZINE」の企画制作/発行、イベント企画制作などを行ってきた。2013年11月より名古屋エリアを中心としたカルチャートピックスを発信/提案するWEBMAGAZINE「LIVERARY」を仲間たちとともに始動。同誌の企画/編集/ライティング/イベント制作などを担当。また「コロカル」(マガジンハウス)など他媒体でも執筆中。

カメラマンKazuhiro Tsushima

TONETONE PHOTOGRAPH 代表。愛知県出身。ファッション、雑誌、アートZINE制作など、アンダーグラウンドでたきにわたって活動中。名古屋の凝り固まった古い考えをぶち壊したいという思いで日々奮闘中。暇さえあればゲームか買い物。フィルムを使った撮影が得意。