2017.4.12

日米ハーフの師範西川カークの目に映る、魅力だらけの“名駅〜円頓寺”

西川流 別格師範 西川カークさん

TEXT : TOSHIO SAWAI / PHOTO : TOMOYA MIURA

今回の「MY FAVORITE ROUTE」のナビゲーターは西川カークさん。アメリカ人の父親と日本舞踊・西川流の師範でもある母親の長男として生まれ、初舞台が2歳の時。18歳からはアメリカに留学し、2016年7月に名古屋に戻ってきたというカークさんにお話を聞きました。

MANOA VALLEY CAFE

「名古屋と言えば」の地下街を、粋に着物で歩きます

待合せたのはユニモールにあるカフェ『MANOA VALLEY CAFE』。筆者が到着するとお店のガラス越しに一際存在感のある着物姿の男性が!それが西川カークさんでした。なぜ着物?と驚くと……。
「今回はせっかくなので着物にしました。毎日着ているわけじゃないですが、小さい頃から稽古でも着ているし、着物の方が面白いかなと思って」確かにイケメンの着物姿は絵になります!

ハワイアンカフェからコーヒー片手に颯爽と登場した着物姿の師範。シャレオツです!

さて、カークさんのことを知らない人のために説明すると、彼は日本舞踊・西川流の師範であり、アメリカ人と日本人のハーフです。小・中・高校とインターナショナルスクールに通い、卒業後はアメリカのアーカンソー州立大学で演劇を学んだ役者でもあります。大学卒業後はロサンゼルスに移住し仕事をしていたそうですが、昨年夏に名古屋に戻ってきました。ちなみにここを待合せ場所に選んだ理由を尋ねると……。
「名古屋と言えば、地下街じゃないですか!名古屋駅も栄も地下街が広くて、お店も多いし、雨でも濡れないし、便利すぎます。このカフェはローストビーフが美味しいんですが、今日はこの後いろんなお店に行く予定なので、コーヒーのテイクアウトだけにしておきます。残念です(笑)」

コーヒー片手に歩く着物姿のカークさんは明らかに目立つスタイルですが、本人は至って自然体。おかげで筆者も緊張することなく、楽しみながらの街歩きが始められました。

MANOA VALLEY CAFÉ ハワイで人気のカフェ創業者が全面サポート!

ユニモールを通って、円頓寺方面へ

ユニモールを通って、円頓寺方面へ「U12」出口から地上に上がると、外は天気も良く最高の街歩き日和!途中、海外からの観光客に記念撮影を求められるハプニングもありましたが、そこはサービス精神のあるカークさん。完璧なスマイルのおもてなしをしていました。ツインタワーを背にして左に曲がり、円頓寺方面に向かいます。

THE CORNER Hamburger & Saloon

「アメリカに行って、日本のすごさに気付きました」

地下街を出て5分。カークさんおすすめのバーガー店『THE CORNER』に着きました。
「日本だとバーガーはファストフードのイメージが強いですが、ここのバーガーは違います。サーブ時のお皿の向きが考えられてますし、まず見た目で食欲が湧くんです。よく西洋と東洋の考え方の違いが言われますが、日本舞踊も含めて東洋では形から入ることが多いのに対して、西洋では頭で理解してから入るというのが一般論です。でも、その両方が大事だと思う僕にとって、ここのバーガーは形も中身も、論理的にパーフェクトです!」と話すうちに注文したハラペーニョバーガーが目の前に。そしてかぶりつくカークさん。

ハンバーガーに刺さっていた金串を気合一閃、一気に抜きテンションの上がるカークさん。
  • この後、ものすごい肉汁が垂れて一大事!ジューシーさが目から伝わった瞬間です。

「肉汁もハラペーニョの辛さもファンタスティック!ただ、食べるのが下手なので、あんまり見られると……(笑)」と。筆者、凝視してました、すみません。それにしても着物とバーガーという組合せは不思議です。そもそも小さい頃のカークさんはインターナショナルスクールで英語だけの1日を送り、帰宅後に西川流の稽古だったそう。そんな筆者にとっては異世界のような日常をどんな風に感じていたかを尋ねると……。

  • 「父親の故郷のアーカンソーやロスの街角にもありそうな雰囲気も好きです」とカークさん。本格派バーガーを出すお店が最近名古屋で増えていることを伝えるとさらに嬉しそうでした。
  • 「調理してる時は無愛想に見えますけど、作るハンバーガーに愛を感じます!」とシェフを大絶賛。

「友達と遊びたいのに稽古があって嫌だなという気持ちはありました。そんな時期にはパンクロックを聞いたりもしました(笑)。親には“あなたがやりたいって言ったのよ”と言われますけどね。ただ、いまはアメリカに行って日本舞踊の素晴らしさや日本のすごさに気付いたし、名古屋のよさも帰ってきて実感していますね」。

THE CORNER Hamburger & Saloon アメリカの街角にありそうな本格派ハンバーガーショップ

円頓寺商店街をぶらり

面白そうなものを物色しながらアーケードを歩いていると、三英傑像を見つけたカークさん。すぐに信長、家康をイメージしたポーズや表情をしてくれたのはさすがです!

円頓寺銀座街の路地に入ると、個性的なロックバー「テラゾ」の前で「以前、一度入ろうと思ったんですけど、諦めたことがあって。だから次回、必ず挑戦します」と宣言。名古屋のディープなスポットへの好奇心がウズウズしているようです。

ちょっと寄り道 金毘羅さん

金刀比羅神社では、人気の「名古屋弁おみくじ」を引きます。カークさんのこの日の運勢は、「吉」!仕事運の「将来ええもんで正義に立ちゃあ」、願望の「努力で叶うわ」の言葉に満足げなカークさんでした

西アサヒ

知れば知るほど面白い深みのある名古屋の歴史

さて次にやってきたのは、円頓寺商店街の名物喫茶店だった『西アサヒ』です。2年前にリニューアルオープンし、いまはゲストハウスとしても人気です。なんと、カークさんも宿泊されたことがあるそうです。

  • 西アサヒ名物「タマゴサンド」は、昭和7年から地元で愛され続けてきた一度食べたら忘れられないボリュームと味。テイクアウトもできます。

「名古屋が“行きたくないランキングで1位になった”と聞きましたが、僕の中ではなんで?という気持ちです。歴史や芸術や街の面白さで言ったら全然東京にも引けをとらないと思います。僕の先輩にクリス・グレンさんという歴史好きで名古屋に移住したDJがいるんですが、外国人が本気で好きになって住んでしまうほど、名古屋には深みと面白さがあると思います。この『西アサヒ』にはクリスさんの甲冑が置いてある個室があるんですよ」。
インターナショナルスクール時代には日本の歴史をほとんど学んでいないというカークさん。それだけにいま強烈に歴史への知識欲が湧いているようです。

  • カークさんが以前に泊まったというドミトリー部屋。「狭い場所の方が落ち着くし、集中力が増すし、クリエイティブになれます!」
  • 「クリスさん風に言えば“ドーモドーモドーモ、サムライシティ、ナゴヤ”ですね(笑)。三英傑や桶狭間の古戦場跡、草薙の剣のある熱田神宮……。数え上げたらきりがないですが、それらが現在に繋がっていると思うと面白くないですか?」

「アメリカでの役者の師匠に“おまえは探偵だ”と言われて。それは台詞一つひとつに意味を見つけるということで、もっといえば作者のヒストリーを調べなさいとも。その影響もあって街の見方も変わりましたし、日本の歴史にも興味を持つようになりました。実は『十三人の刺客』という映画で見た女性が“お歯黒”をしていたことも影響が大きくて。その時は知らなくて、これはなんだ?と。それからは知れば知るほど面白くなってきましたね」。
名古屋で最も古いと言われる円頓寺商店街を歩くカークさんの目は、好奇心でキラキラ輝いていました。

西アサヒ 円頓寺を象徴する「喫茶」兼「食堂」兼「」民宿

カブキカフェナゴヤ座

「アメリカと日本の両方の視点で魅力を伝えたい」

『カークさんが師範を務める西川流とも縁の深い日本の伝統芸能「歌舞伎」。その名を冠するのが『西アサヒ』から歩いてすぐにある『カブキカフェ“ナゴヤ座”』です。

ナゴヤ座のメンバーと一緒に見得を切るカークさん。写真=左から、名古屋参十坐、名古屋山三郎、カークさん、名古屋山之助、名古屋参駄右衛門。
  • 花ふぶきもド派手に舞います。
  • 目の前で繰り広げられる面白く迫力あるステージにくぎ付けです。

「日本舞踊も歌舞伎も、伝統芸能って馴染のない人からするとハードルが高くて、実際に見てもよく分からないと思われてしまうこともあるかなと。でもここで見られる“ナゴヤカブキ”は本当にすごい。エンタテインメント性が高くて、分かりやすくて、お客さんも一緒に楽しめる。僕も一緒に舞台に立ちたいほどです」。
さらに「ここほど役者との距離が近い舞台はほかにはないですよ」と続け、取材時も最前席で迫力ある殺陣やアクションを興奮しながら楽しんでいました。

  • 観客参加型の演出のひとつ「ボール投げ」。カークさんも筆者もステージ上の鬼キャラめがけ投げるのに必死。
  • 名入れちょうちんに西川流四世家元、西川千雅さんの名前を発見!カークさんの叔父さんです。

「“ナゴヤ座”のみなさんは、スタンスがクリエイティブなんだと思います。花道や畳敷きのハコ的な部分は伝統を生かしつつ、演目のアレンジは“ナゴヤ座”流。西川流も毎回工夫して面白くするようにしていった流れで独自の振りがあったりするので、新しいことに挑戦する姿勢には共感します。それにアメリカと日本の視点を持っている僕だからこそできることを生かして、名古屋の人が気付いていない魅力をPRできたらと考えています」。
“芸どころ 名古屋”の伝統とカークさんの挑戦が『カブキカフェ“ナゴヤ座”』で見られる時が来る日も近そうです。

カブキカフェナゴヤ座 日本で唯一の新感覚エンターテイメントを楽しめる!

堀川と古い町並み∼屋根神さま

「ナゴヤ座」を出て東。五条橋にある「慶長七年」の銘のある擬宝珠を見て、堀川の風情を楽しみつつ、四間道に向かいます。美しい街並みの中で自然にカークさんの表情も穏やかに。ふと見上げると名古屋独特の風習である「屋根神様(やねがみ)」を発見。写真の屋根神様には津島神社・秋葉神社・熱田神宮の3つの神様が祀られています。

「こうやって街を歩いていろいろ発見するのが好きですね。自慢じゃないですが、昔、栄から本郷まで歩いたことがあります!その時も思いましたが、名古屋駅から栄にかけての広小路通沿いにはアート作品が並んでいたりもして、名古屋は街を歩いてて楽しいです」

「歩いて楽しんで健康にもなれて名古屋のことも知れるような企画ができたらいいなと考えてます」とも語るカークさん。今後の動向から目が離せません。

四間道ガラス館

想像力を刺激する、江戸の風景が残る町並み

最後にやってきたのは、堀川西側の南北に走る四間道(しけみち)沿いに建つ、2007年にオープンした『四間道ガラス館』です。ここはガラス食器の卸売の会社が運営する、ギャラリー兼ガラス器のセレクトショップです。

カークさんの叔母さん、西川陽子さんとお店の前でばったり。会話の内容が、思い出話か業務連絡かは分かりません......。
  • 「父親がビール好きなのでグラスをあげたいと思って。昔、富士山に連れて行ってもらった思い出があるので、ビールを注ぐと富士山の夕景になるグラスにします!」
  • 「母はキレイな色が好きだから、赤と金がキレイでかわいい干支の置物にします」

「『四間道ガラス館』さんには、西川流が毎年行っている“名古屋をどり”の公演でお客様にお配りする記念品を作って頂いています。それに昔はここの隣に母方の祖母が住んでいたのでとてもなじみがあります。祖母は“わたしの縄張りだがね”と言ってました」
たくさん並ぶ器や小物を物色しながら「母親がガラス細工好きなので」とお土産を選ぶカークさん。「ついでに父親にも」と2点お買い上げです。

「祖母の家ではここに並んでいるような切子グラスで飲物を飲んでいました。こういう細工を見ると、アメリカの大学で大道具や小道具をしていた頃を思い出します。表に立つ人のために裏方も大事なんだってことをその頃に知りました。それに僕は絵を描いたり物を作るのが好きなので、こういう場所では刺激を受けます。あとJRセントラルタワーズの高層階から街が栄える前のことをイメージするのも好きで、母親が見ていたのはどんな景色かなとか、四間道が縄張りだった祖母の遊んでいた風景とかを想像するのも楽しいです」。
名駅の高層ビルを間近にしつつも江戸時代の風情が残る四間道界隈は、カークさんの想像力を普段以上に刺激するスポットなのかもしれません。

四間道ガラス館 明治からの歴史を感じさせるガラス器の専門店

PROFILE

案内人Kirk Nishikawa

西川流家元西川右近の長女・まさ子さんの長男として生まれた日本とアメリカのハーフ。2歳で初舞台を踏み以後毎年「名古屋をどり」に出演。2007年高校卒業後、アメリカに留学。2010年にハリウッドに転居し役者として活動を始める。昨年7月に名古屋に戻ってきたばかり。現在、NHKの情報番組「さらさらサラダ」でMCを務めている。

ライターToshio Sawai

愛知県出身、清須市在住のライター。情報誌の編集制作、音楽事務所でのマネジメント業務を経て独立。読書とヨガが好き。嫁のおかんが毎日かけてくる電話を1日おきに減らしてもらうための上手な言い方と、父親のリハビリ、娘の成長、嫁との対話が目下の興味。

カメラマンTomoya Miura

1982生まれ。現在名古屋を中心にウロウロしながら撮影中。 その他、雑誌広告も。
栄の観覧車に一度は乗ってみようと思ってます。