2018.6.28

料亭遊び、はじめの一歩~料亭に行ってみたい!という方のために~

TEXT : MARIKO KONDO / PHOTO : YASUKO OKAMURA

ネットで料理人や飲食店が話題になり、点数が付けられたり、本人も知らないうちに情報がどんどんアップデートされたりする時代。便利でもあるし、そうではない一面も取りざたされますが、まだまだ日本には、そうした世界とは一線を画し、古きものを良しとする“料亭文化”が存在しています。名古屋には、『名古屋芸妓連合組合』もあって、芸妓さんが芸の精進に日々努力されており、料亭でのお座敷遊びの習慣もきちんと残されているのです。そしてこの料亭文化は、一部の人のためだけでなく、わたしたち市民の全てに開かれたもの。ここでは、初心の方のために、料亭にはどうしたらいけるのか? 料亭のマナーは? といった料亭ノウハウをご紹介したいと思います。

料亭 か茂免

料亭に行くにはどうしたらいいの?

“一見お断り”を貫く料亭ではない限り、予約は電話(料亭によってはホームページからの予約も受け付けています)でOKなのですが、料亭はある意味で閉ざされた世界なので、最初は顧客に連れて行ってもらうか、顧客から一本電話を入れてもらうと対応はよりスムーズになります。周りで顧客が見つからない場合は、電話してみましょう。営業時間外の午後2時から午後5時の間に電話をするのがベター。この時、接待やお祝いなどの用途、料理の予算、苦手な食材や希望のお酒の有無など、できる限り詳細を伝えます。

予約当日を迎えたら・・・

ドレスコードは特に決まっていませんが、作業着のジャンルであるジーンズや素足は遠慮しましょう。女性の場合、本来はストッキングもNGなので、玄関で靴下を履いて上がることをお勧めします。そうすることで、料亭からは「うちのお店を大切に思ってくださるお客様だ」という印象を受けることができます。

足のせ台の使い方をマスターしよう

玄関に足のせ台(塗りの踏み台のこと)があったら、これを利用して靴を脱ぎます。石段の上で片方の靴を脱ぎ、足のせを使って、そのまま前向きで上がります。靴はお店の方が片付けてくださるので、そのままに。

予約時間よりも少し早めに到着するのがマナー

予約時間よりも5分前には到着するように、接待する側なら遅くても15分前には到着しましょう。玄関で予約名を告げて、お座敷へと通してもらいます。場合によっては、待合でお客様全員が揃うまで待つこともあります。『料亭 か茂免』では、洋館などのお部屋が待合になります。この待合の空間を眺めて楽しむのも一興。すでに料亭を愛でることは始まっています。

料亭の庭を眺め、季節感を堪能する

「料亭の楽しみのひとつに、庭を眺めることがあります。手入れされた庭には、季節ごとに表情があるので、それを是非楽しんでいただきたい」と教えてくださったのは、『か茂免』の若主人、船橋識光さん。夜になればライトアップされるので、月の明かりとともに、窓辺で庭を眺めてみましょう。

廊下も壁も天井もすべて鑑賞の対象

仲居さんにお座敷へといざなわれる途中、廊下や壁や天井の隅々に、職人の技術が施されているのに気づくでしょう。『か茂免』の本館と新館をつなぐ廊下には、網代に編まれた天井と良質な杉材で組まれた天井、土壁と板壁のコントラスト、丸窓に御簾越しの窓など、見どころがいっぱい。まさに日本の職人技術のミュージアムです。ゆっくり見たいポイントがあったら、どんどん質問してみましょう。仲居さんが丁寧に説明をしてくれるでしょう。

いざお座敷へ、どう座る?

お座敷に通されたら、その日の主役やお客様を上座に座ってもらうよう、予約者がなるべくスムーズに仕切ります。床の間の前が上席、入り口に近い席が下席になります。フレンチやイタリアンでは、レディーファーストで女性が上席に座りますが、料亭では男性が上席に座ることが多いようです。これは男女の区別という意味ではなく、伝統的に男性社会で料亭が使われてきたことの名残なのかもしれません。もちろん女性が主役の場合は、いちばんの上席に座ってもらいましょう。

またお座敷には必ず床の間があるので、掛け軸と花を拝見します。その日のお客様のためにしつらえた花と掛け軸は料亭からのメッセージです。もてなしの心が投影されている空間を、じっくりと楽しみたいものです。他にもふすまや屏風など、至るところに意匠を凝らしたものが使ってありますので、隅々まで宝物を探すつもりで見せていただきましょう。

料理は五感で楽しみ、会話がご馳走

料亭の会席料理には、季節感を随所に、味わいには緩急をつけて、ストーリーがこめられています。料理長の思いを読み解きながら、五感で楽しむことが何よりも楽しみ。そしてそこにエッセンスを加えるのは、仲間との会話です。料理の中に発見した季節や旬の食材、お酒との相性などを話しながら、お箸を進めることこそ、食事を美味しくするためのいちばんの調味料になるでしょう。
食べ終わった器はお膳の外に置かないこと。これは“料理を早く持ってきて”というサインになってしまうのです。また器を重ねたりするのもNG。貴重な器でいただいているのですから、食べ終わった後の器も愛でる気持ちを忘れずに。

お座敷遊びするなら料亭に依頼しよう

  • 写真 / やっとかめ文化祭提供

料亭に何度か行き慣れたら、今度はお座敷遊びを体験してみませんか?芸妓さんたちは、名古屋の場合、『名古屋芸妓連合組合』に所属しており、料亭を通じて依頼をすればスムーズです。予約時に、お座敷遊びを体験したい、とオーダーします。初めてお座敷遊びをするので教えて欲しいと伝えれば、あとは全てお任せ! 若女将が程よいタイミングで芸妓さんをお座敷に呼んでくれますので、そこからは芸妓さんに手ほどきを受けます。芸妓の踊りに見惚れ、三味線に聴き惚れ、お酒を酌み交わしながら会話も楽しみます。そしてお客様も参加型のゲームを一緒にやってみましょう。しゃちほこ芸にも是非挑戦してみてください。

取材撮影協力:料亭 か茂免

PROFILE

ライターKondo Mariko

コピーライター、プランナー、コラムニスト。得意分野は、日本の伝統工芸・着物、歌舞伎や日舞などの伝統芸能、工芸・建築・食など職人の世界観、現代アートや芸術全般、食事やワインなど食文化、スローライフなど生活文化やライフスタイル全般、フランスを中心としたヨーロッパの生活文化、日仏文化比較、西ヨーロッパ紀行など。飲食店プロデュース、食に関する商品やイベントのプロデュース、和洋の文化をコラボさせる企画なども手掛ける。やっとかめ文化祭ディレクター。

カメラマンOkamura Yasuko

フォトグラファー / 329photostudio 主宰
東海地区を中心に活動、全国、海外撮影も行う。衣食住、普遍的な美しさとコンテンポラリーな佇まいが好き。