2017.10.31

名古屋の和菓子、“実は”美味しくて面白い。

コピーライター 近藤マリコ

TEXT : MARIKO KONDO / PHOTO : YASUKO OKAMURA

パリでは羊羹がYOKANとして認知されるようになり、日本の和菓子の芸術性と味わいは、世界のスノッブたちから賞賛を浴びはじめている。日本料理に神秘的な創造性を感じる彼らが、和菓子に同じ感性を持つのは至極当然のことだと思う。名古屋の和菓子について注目してみると、世界の人々を夢中にさせるだけのアイテムが、実は名古屋にたっぷりと詰まっていることが、和菓子好きの方ならすぐに理解していただけるはずだ。「実は」という言葉でその魅力を語られることが多く、つまり予想に反して、とかイメージとは違って、という意味で名古屋は面白いのだけど、和菓子に関しても、「実は美味しくて面白い」のである。

簡単に端折って説明すると、名古屋の和菓子屋さんにはすべてが揃っていると言っていい。お茶会などで使われるような生菓子から、日常のおやつに当たるお煎餅やお饅頭まで、普通なら分業で別々のお店にあるはずの商品がくまなく並んでいるのだ。それともう一つの大きな特徴は、美味しいレベルが高いということ。ある仕事で、名古屋の和菓子店を一堂に揃えて、自慢の逸品を並べて食したことがあるのだけど、季節感、彩り、香り、材料の吟味、独創性、食感、すべてに職人さんの思いがいっぱい詰まっていて、一つひとつの和菓子物語に感激したことをはっきり覚えている。

それ以来、個人的に「#名古屋の手土産は和菓子にしよう」運動を始めていて、名古屋の人への手土産としてはもちろん、出張に行くたびに各地で好評をいただいているので、手土産にしたい名古屋の和菓子をここで是非ともご紹介したいと思う。

万年堂 『半生干菓子』

季節の彩りをそのまま箱にぎゅっと詰めた美しさ。

これは秋のバージョンの半生菓子と干菓子。贈った先の方が、箱を開いた時に「わぁ! 綺麗!」と感嘆の声をあげるのが目に浮かぶようだ。こんな想像をすることも手土産選びの楽しみの一つ。

和菓子屋さんの魅力は、パッケージに詰まっている。万年堂のパッケージは昔ながらの上品な包装紙で、ちょっと気の張る方への手土産にもぴったり。これ以外にも可愛いイラストや伝統的なパターンなど、万年堂の包装紙にはいろいろな種類がある。

川口屋

どこまでも柔らかな食感は、一度食べたら忘れられない。

いつも10種類程度の生菓子が並んでいる。夕方には売り切れてしまうこともしばしば。ある程度の数が必要なら電話で予約を入れた方がいい。ある時「翌日に東京にお土産で持って行きたいんですが日持ちする生菓子はありますか?」と相談の電話をすると「それなら翌日になると食感が変わって美味しくなる生菓子を用意しておきますね。夕方作るようにするから、なるべく遅い時間に来てください」とありがたいお返事が。翌日、もっちり感が増した生菓子5種類を親しい方への手土産にしたら、それはもう大喜びされた。

生菓子は日持ちが限られるけど、焼き菓子なら日持ちがするので、遠方に出かける時は、この素朴な焼き菓子を選ぶようにしている。この2種類、どちらもこしあんなんですって。濃さが違うのだけど、例えてみるなら、おしるこの上の方と、おぜんざいの下の方の味の違い、とでも言いましょうか。

  • 元禄元年創業の川口屋は、パッケージも昔ながらのシンプルなもの。手早く和菓子を詰めて、紐をかけてキュッキュッと結ぶ様は、いつもながら見ていて気持ちが良くなる。

御菓子所 山中 『まっちゃちょこ』

抹茶とチョコとオリーブオイルの組み合わせで、新しい和菓子の世界観。

はじめて『まっちゃちょこ』をいただいた時の衝撃は今でも覚えている。濃茶をそのままお菓子にしたような濃厚でねっとりした抹茶チョコレート。さらに驚きなのは、オリーブオイルをかけて召し上がって、と言われたこと。抹茶チョコレートに合うオリーブオイルがセットになって販売されているのだ。確かに、抹茶とオリーブオイルのグリーンノートがぴったり合って、和菓子でも洋菓子でもない、不思議なコンビネーションを楽しむ事ができる。

  • 抹茶をイメージする長い紐が特徴的なパッケージは、季節ごとに包装紙が変わる。『まっちゃちょこ』は漆風の小箱入り。オリーブオイルとのセットで持ち重りがするので、なんとなく高級感あふれる贈り物になる。

一般の和菓子屋さんと違って、和菓子の陳列が見当たらない。基本的に予約販売なので、事前に電話などで予約してから買いに来るお客様がほとんどなのだとか。

御菓子司 不老園正光 『和葛(やわくず)』

和菓子の素材に洋菓子の発想を取り入れて、心和らぐお菓子に。

和菓子屋が作るミルクプリン、と書かれていたので気になって食べてみたら! なんでしょう、この食感! ババロアではないし、洋菓子のような粉っぽさもない。トロンとしていて、ふんわりしている。聞いてみたら、吉野葛を使っているとのことで納得した。新鮮な牛乳とクリーム、お砂糖で作った『和葛(やわくず)』、さすが老舗和菓子屋の発想だなぁと、感心されることまちがいないと思う。

  • 『和葛』は、抹茶、苺、焙じ茶、胡麻、大納言小豆、和栗の6種類。木のスプーンも付いているので、手土産にお持ちしても相手を煩わせることがない。

カフェコーナーがしつらえてあり、ここで和菓子や和葛をいただくことができる。昭和レトロな香り漂う畳コーナーがオススメ!

あられの匠 白木

誰もが美味しくて懐かしいと思える、お米のお菓子。

ああ、もうこの写真を見るだけで、ごぼうの香りと、カレーうどんの香りが漂ってきそう。『ごぼうあられ』と『和風カレーせんべい』は、白木のあられの二大売れ筋商品ではないかと思う。ごぼうの香りは封を開けた瞬間から食べ終わってしばらくするまで楽しめる。和風カレーせんべいの方は、私は勝手に「名古屋名物カレーうどん」のイメージでいつも食べている。お酒のお供によし、お茶請けによし。手土産として軽いのも嬉しいところ。袋に入れて砕き、サラダのトッピングに使っても美味しい。

こちらは『炊きよせ雛』。カラフルなあられが色とりどりで、女子受けすることまちがいなし。これら以外にも、店内にはあられやせんべいがいっぱいあって、プチプラということもあり、ついついいっぱい買い込んでしまう。迷うのも楽しい手土産選び。

進物用には黒いボックスに包装紙をかけて、稲穂でワンポイントのラッピング。ちゃんとした感があるので、気を使う相手への手土産にもなる。スタッフがたくさんいらっしゃる会社への手土産にするには、個包装なので分けてもらいやすく、重宝する。後日「この前頂いたあられが美味しくて!」と言ってもらえるはず!

番外編

江崎グリコ×坂角総本舗共同企画
名古屋土産の定番「ゆかり」が「チーザ」とコラボ!
ゆかり濃厚おつまみスナック

江崎グリコから販売されているチーズを使った「チーザ」はご存知だろうか。お菓子としてというよりも、お酒のおつまみとして大人気の“生チーズ感”たっぷりの商品だ。そのチーザと名古屋土産の定番「ゆかり」とのコラボ商品があるという噂が都市伝説となって、一部マニアの間で囁かれたのは夏頃だっただろうか。どうやら名古屋駅の新幹線ホームのキオスクに売っているらしい、とか、名古屋駅の構内にはあるらしい、といったSNS投稿が相次いだ。
現在、名古屋駅をはじめとした、中部地区主要駅のキオスクなどで販売されている。食べてみると、まさにチーザとゆかりのコラボそのもの! ゆかりの「海老」の香ばしさと独特の香りが、チーザのカリカリ食感に包まれているというイメージである。プチプラなので、友人や親しい人への気軽な手土産にぴったりだ。数をまとめて購入して、おしゃれなパッケージに詰めれば、“名古屋らしくて今までにない”手土産になる。

「#名古屋の手土産は和菓子にしよう」運動を個人的に勝手に活動しているわけだが、名古屋の和菓子の魅力にすでに気がついている著名人も実は多い。今年の『やっとかめ文化祭』の一環である和菓子企画では、文筆家の甲斐みのりさんが、名古屋の和菓子の案内人として、和菓子店を巡っている。10月28日〜11月19日に開催される『やっとかめ文化祭』で、21店舗の和菓子店がそれぞれにユニークでオリジナリティ溢れる和菓子を販売し、それを巡るスタンプラリー(判子コレクション)が企画されているので、名古屋の和菓子の魅力を知るには良い機会ではないだろうか。手土産にする前に、まずは自分で買って味わってみよう。もちろん和菓子店では、一個から販売してくれるので、気軽に訪ねていただきたい。
やっとかめ文化祭

PROFILE

ライターKondo Mariko

コピーライター、プランナー、コラムニスト。得意分野は、日本の伝統工芸・着物、歌舞伎や日舞などの伝統芸能、工芸・建築・食など職人の世界観、現代アートや芸術全般、食事やワインなど食文化、スローライフなど生活文化やライフスタイル全般、フランスを中心としたヨーロッパの生活文化、日仏文化比較、西ヨーロッパ紀行など。飲食店プロデュース、食に関する商品やイベントのプロデュース、和洋の文化をコラボさせる企画なども手掛ける。やっとかめ文化祭ディレクター。

カメラマンOkamura Yasuko

フォトグラファー / 329photostudio 主宰
東海地区を中心に活動、全国、海外撮影も行う。衣食住、普遍的な美しさとコンテンポラリーな佇まいが好き。