2017.7.21

相撲初心者が名古屋場所を楽しむ方法
「推し力士を見つけると、相撲が一気に身近になると思います!」

元大相撲力士

TEXT:TOSHIO SAWAI / PHOTO:TOMOYA MIURA、HIDETSUGU KAWASHIMA

日本人力士の活躍や、稀勢の里の横綱昇進の影響もあってか、筆者の周りでもいままで相撲のスの字も知らなかった女性から力士の話題が飛び出すほど、相撲人気の高まりと広がりを感じる昨今。そんな中でいよいよ始まった、年に一度の名古屋場所。今回の特集では、人生で一度も観戦の経験がない相撲初心者の筆者が、SNUG CITY NAGOYAの「MY FAVORITE ROUTE」にも登場してくれた陸奥部屋の浦風親方に相撲観戦の楽しみ方を教わりました。

円頓寺の喫茶店「西アサヒ」で浦風親方にお話を聞きました

最初のステップはご近所から攻める!
覗くつもりで気軽に稽古場へ!

――相撲観戦初心者としては、正直、愛知県体育館に観戦しに行くのは難易度が高いです。NHKでは午後3時頃から放映されてますが、実際には何時に行けばいいのかとか、逆にテレビでいいじゃないかと思ったりもします。しかも調べてみると、前売りチケットも売り切れています。相撲への興味を持った初心者は、実際に相撲をどう楽しんだらいいんでしょうか?

「そうですね、楽しみ方は自由だとは思いますが、確かに“相撲は生で見た方が楽しいですよ”とオススメしても、初心者の方にとっては名古屋場所に訪れるまでにいくつもハードルがあるかもしれません。それなら、私としてはまず、その相撲への興味を、ご自宅の近くにある相撲部屋へ向けてみては?というご提案をします」

――近くの相撲部屋というのは?

「名古屋場所中に力士たちが滞在して稽古をする宿舎のことで、どの部屋も宿舎があって、名古屋市内をはじめ近郊の市町村にあるんです。詳しい所在地は、中日新聞さんの名古屋場所のサイトで調べられますよ。ちなみに私が所属する陸奥部屋は、西区の安性寺の境内をお借りしています。まずは近所の宿舎に行ってみるのがオススメです。朝7時頃から稽古風景が見られますよ」

――調べてみると、(筆者の自宅)近所には陸奥部屋(浦風親方が在籍)と伊勢ノ海部屋がありました!とはいえ、急に宿舎に行ってもいいんですか?予約や電話はした方がいいんでしょうか?宿舎に行くのにも初心者としてはなかなか勇気がいります……。

「「そんなに心配しなくても大丈夫です。宿舎といっても土俵のある稽古場です。建物の中に土俵があるようなところは入りづらいかもしれませんが、名古屋場所は季節的も暑いので、風通しのいい外から見られる稽古場が多いんです。予約の必要もないです。そんな意味でも、まずは本当に覗くつもりで大丈夫(笑)。逆に言えば、名古屋ほど稽古を気軽に見られる確率が高い場所はないですよ!」

ということで後日、名古屋場所が始まる前の
陸奥部屋の稽古を覗きに行ってきました!

――想像以上に住宅街の中にあって驚きました。見に来ている方も老若男女という言葉が相応しいですね。

「毎日来るのは、ご近所のおじいちゃんおばあちゃんですね。最近は若い方もたくさんいらっしゃっていて、しかも男性より女性の方が多い気がします。さらに言えば、勝敗数はもちろん出身地や出身校まで調べているようなマニアな女性ファンが増えている。ありがたいことです」

筆者の自宅から自転車で10分弱。稽古場に近づくとのぼりが見えてきます

  • 住宅街の中に突如として現れた力士たち。ピリリとした雰囲気です
  • 見に行った日は場所前の平日。常連さんや近所の方など、いろんな方が見学に来られてました
  • みなさん、陸奥部屋のウェブサイトに載っている笑顔の写真とは違う、真剣な表情です。写真は隆貴関。
  • すり足をしている力士。土俵の外では力士たちが四股を踏んだり、ダンベルを持ったり、各自のトレーニングをしていました
  • 浦風親方も西アサヒでのインタビュー時の温和な雰囲気とは一変!
  • 最も一般的な稽古と言われる「申し合い」(※1)の風景。この日は場所前ということで相当気合の入った「申し合い」だったようです

※1「申し合い」は、2人の力士が土俵の中で勝負し、負けた力士は土俵から出て、勝った力士が次の相手を指名して再び勝負する勝ち抜き戦形式の稽古のこと

稽古場での稽古の積み重ねが、本場所での土俵上での一番になる
そこに命を懸けるつもりで、みんなやっている

--一度稽古場を覗いてみると、意外に気軽に行けるところだと思いました。おかげで次は伊勢ノ海部屋の宿舎にも行ってみたいと思います。それに稽古場で見たのは筆者の知らない力士ばかりでしたが、迫力が本当にすごい! 特に勝ち抜き戦のような稽古で、筆者が見ていた時にずっと勝ち続けていた力士に惚れました!

「メディアに出るような有名な力士は番付表の上位にいる力士ですから、うちの部屋にいる力士はまだご存じないかもしれません。ご覧になったのは霧津羽左(きりつばさ)ですね。そうやって気になる力士が見つかると、相撲が一気に身近に感じられて、面白くなってくると思います。気になる力士がいると、今場所勝ってくれるかなと思うわけじゃないですか。それに来年、名古屋場所に帰ってきた時に、どれくらい成長しているのかというのも楽しみにしてもらえたらありがたいですね。あと知ってほしいのは、稽古場での稽古が積み重なったうえで本場所の土俵上での一番になるということです。例えば霧津羽左は、いま番付で三段目なんですが、彼ら幕下力士は15日間の場所のうち7日間しか相撲が取れないんです。7回の土俵の1回1回に集中して、いかにそこに命を懸けるかという気持ちでやっている。だから稽古にも集中するんです」

  • 筆者イチオシの霧津羽佐関。見学時は、「申し合い」で10回以上勝ち続けていました。小柄を活かした機敏さと気合いの入った動きに筆者ベタ惚れです
  • 「申し合い」では思わず手に汗を握ってしまうシーンが頻発!稽古の激しさを感じました

――ちなみに気になった力士にサインをもらったりとかしてもいいんですか?

「力士って体が大きいから怖く見えるかもしれないですけど、“気になって声をかけました。頑張ってください!”って言ってもらえたら、力士も悪い気はしないですし、サインももちろん大丈夫です(笑)。ただ、関取衆のいる部屋だと、気になった若手力士が関取衆の付き人かもしれないんです。そうすると声をかけたいと思っても、稽古の後に関取衆のお風呂の準備をしたりとか仕事があったりするので、そこは勘弁してやってください。とはいえ、基本的には声をかけることは全く問題ないです。もし態度の悪い力士がいたら、すぐに相撲協会にご連絡ください(笑)」

――あと、稽古場での見学中にしてはいけないことってありますか?

「真剣な稽古の場なので、おしゃべりせずに静かに見てもらえれば大丈夫です。それに“がんばれー!”っていう掛け声は稽古場ではまずい(笑)。その掛け声はぜひ愛知県体育館の本場所でお願いします。あと、本場所が始まる前は激しい稽古が見られますが、本場所がスタートしたら調整的な稽古になるので、少し雰囲気は変わると思いますね」

「申し合い」で勝ち続け、汗だくになる力士。激しい稽古を見ていると、だんだん情が湧いてきて、浦風親方が相撲を楽しむ最初のステップとして「稽古場へ!」とおっしゃった理由が分かってきました

  • テーピングを巻く力士。体のメンテナンスも大事なお仕事ですね
  • 鹿児島県霧島市出身の霧桜(きりざくら)関にも声をかけてみましたが、想像以上に優しく応対してくれました!

番付表を手に入れて、お気に入り力士の名前を見つけたら、
最終的には、本場所の雰囲気もぜひ体験してほしいです!

――稽古場で気になる力士を見つけたら、次の相撲を楽しむためのステップは?

「そうですね、番付表をゲットすることでしょうか。各部屋の後援会に入れば毎場所送られてくるものですが、初心者の方であれば名古屋場所をやっている愛知県体育館に行けば手に入れることができます。ただ、いまは人気になので売り切れることもあります」

写真の上が番付、下が取組表

――先日、たまたま後援会に入っている飲食店に入った時に無料でもらえました!

「それはラッキーですね。番付表に気になる力士の名前を見つけると、より相撲に接してる感が増して楽しくなると思います」

――となると、次はいよいよ本場所である愛知県体育館に行きたくなってきたんですが、チケットは……。

「前売りチケットが手に入らなかったなら、あとは当日券ですね。朝7時45分から愛知県体育館のチケット売場で販売しています。今年は4横綱が揃っているので、並ぶ方も多いかもしれません。ちなみに当日券の席でも土俵までは直線距離で30メートル程度。十分楽しめると思います」

各部屋ののぼりが立つ愛知県体育館

――当日券ゲットにチャレンジしてみます!では最後に、筆者のような観戦初心者に向けて何かあれば!

「日常生活の中で大きな声を出す機会ってなかなかないと思いませんか?もしマンションの自宅で“稀勢の里!”とか叫んだら、隣人に変な人だと思われちゃいますよ。でも、本場所が行われている愛知県体育館でなら出せますから。“がんばれー!”とか“霧津羽左―!”とか大声出せば、ストレス発散にもなります(笑)。それにみなさんが大声を出されるとはいえ、仕切りの最後の時間いっぱいになると、周りがシーンとなっていくんです。そんな空気感を味わえるのは現場だけなので、最終的にはぜひ本場所の雰囲気を体験してほしいです。お気に入り力士が勝った時は、相当気持ちよくすっきりするはずですよ!」

PROFILE

Urakaze

千葉県出身の元大相撲力士。本名は吉種弘道。現役時代の名前は「敷島」、最高位は幕内西前頭筆頭。現在は陸奥部屋所属の親方・浦風冨道として活躍中。現役時代からジャズやクラブ系の音楽への造詣が深く、アーティストとの親交も厚い。

ライターToshio Sawai

愛知県出身、清須市在住のライター。情報誌の編集制作、音楽事務所でのマネジメント業務を経て独立。読書とヨガが好き。嫁のおかんが毎日かけてくる電話を1日おきに減らしてもらうための上手な言い方と、父親のリハビリ、娘の成長、嫁との対話が目下の興味。

カメラマンTomoya Miura

1982生まれ。現在名古屋を中心にウロウロしながら撮影中。 その他、雑誌広告も。
栄の観覧車に一度は乗ってみようと思ってます。